私は20代の男性。京都市内にある某私立大学通う大学生です。いろいろな短期バイトをやってきましたが、そのなかで、自分の殻を破ったきっかけになったアルバイトがあります。それは、観光地でのアンケート調査バイトです。
その仕事内容は、観光客にアンケートを口頭で行い回答してもらうというものです。
私は幼少の頃から性格的に引っ込みです。そんな私がどうして口頭で行うような短期バイトを選んだのかというと、仕事内容を勘違いして応募してしまったからです。
自分自身がアンケートに筆記で回答すればいいバイトだと考えていたのです。
ところが、集合場所にて行われた仕事説明で、全く違っていたことがわかりました。完全なる私の勘違いだったのです。
アンケートを受けるのは観光客で、私たちアルバイト調査員たちは口頭で観光客に対していろいろ質問しながら記録していく役割をするというのです。
しかも、アンケートに回答してくれる観光客は、あらかじめ待機しているわけではなく、アルバイト調査員自身が一から探さないといけないとのこと。
例えばベンチで休んでいる人や待ち合わせをしている人などに無作為に声をかけて、アンケートのご協力をお願いするのです。
ちなみにどんなアンケートなのかというと、質問の内容は大体以下のようなものだったと記憶しています。
①今日はどちらの都道府県から来られましたか?
②京都までどのような交通手段で来られましたか?
③京都ではどの観光地に行かれますか?
④京都では何泊される予定ですか?
⑤京都への旅行をしようと思ったきっかけを教えてください
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(後略)
こういった質問事項の項目が確か15個くらいあったかと思います
質問する内容は決まっており、カンペを見ながらアルバイト調査員が観光客に口頭で質問。
そして観光客が回答したことを記入用紙に記録するという作業を行います。
それは引っ込み思案の私にとって難しいことでした。そして何より一番ハードルが高かったのは、全く見ず知らずの人にこちらからお声がけをせねばならないこと。
「こんにちは。〇〇社と申します。現在京都に関するアンケート調査を実施しておりましてご協力いただければ幸いです。数分間お時間をいただけませんでしょうか?」
仕事内容を聞き、「こんなの無理だ!」と瞬間的に思いました。
しかし、調査開始時間はもう1時間後に迫っており、皆、マニュアルを必死で読み込んで練習をしていました。
私も腹をくくって今日を乗り切らないといけない。そうと思わざるを得ない状況でした。
現場監督が集合場所からハイエースで京都市内とを巡回し、調査員たちを所定のポジション(それぞれ有名観光地)に配置していきます。
私は高台寺という有名なお寺の参道付近に配置されることになりました。
「この階段を上ったところが高台寺です。ではこの辺で調査をよろしくお願いします。目標はひとり70枚です。アンケート用紙がなくなったら電話ください」と言って現場監督は次の配置地点に向かっていきました。
「調査員」と書かれた腕章を左腕にして、ボードにはアンケート用紙を挟み、調査をいざ開始!
しかし、全く調査を進めることができませんでした。声をかけれそうな観光客たちはたくさんいたのですが、勇気が出ませんでした。
知らない人にこちらから声をかけて数分といえど時間を拘束するのは迷惑かも・・」
そう思うとなかなか一歩が歩みだせませんでした。
調査開始時間から40分ほど経過。
1人にも声をかけることができず、付近をうろうろ。
このままでは1枚もアンケートに回答してもらえず1日が終わってしまう・・そのプレッシャーとの板挟みで苦しみながら、その場を行ったり来たりしていました。
そんなとき、調査会社の現場監督の人が様子を見に戻ってきてくれました。
どうやっていいか分からないことを伝えると、「わかりました。慣れるまで、一緒にやりましょう!」と一緒に調査をやってくれることになりました。
現場監督はベンチに座っている男性にまず声を掛けました。
「こんにちは。〇〇社と申します。現在京都に関するアンケート調査を実施しておりましてご協力いただければ幸いです。数分間お時間をいただけませんでしょうか?」
すると、その男性は「いいですよ」と快くアンケートに協力してくださりました。
そのあとも、現場監督は女性グループ、年配のご夫婦、カップルなどに次々と声をかけていきました。
なかには「ちょっと急いでいるんで、すいません」みたいに断られるケースもありましたが、意外と快くアンケートにご協力いただけるものだなと思いました。
30分ほど手本を見せていただきいたとき、「では次やってみますか?」と聞かれました。まだ無理・・とは思いましたが、さすがにここまで親身に手本を見せてくれた以上断れませんでした。
「は、はい。何とかがんばってやってみます」と回答しました。
周囲を見渡すと、ベンチに1人の男性が座っているのが視界に入りました。その男性は特に何をしているわけでもなく、ちょうどアンケートに回答いただくだけの暇は持て余していそうです。
しかし、その男性はサングラスをかけ首にはネックレス。ピアスに金髪のチョイ悪風・・。
いかにも声をかけてはいけないオーラを醸し出していました
よりによって・・と思いましたが、現場監督をこれ以上待たせるのは申し訳ないと思い、勇気をもってその男性に声をかけに行くことにしました。
「こ、こ、こんにちは・・。〇〇社と申します。げ、げ現在、、京都に関するアンケート調査を実施しており、おりまして・・ごご、協力いただけませんでしょうか・・?」
緊張して自分でも何を言っているのか分からず、しまった・・断られる!と思いました。ひょっとしたら殴られるかも?と覚悟しました。
ところが、そのチョイ悪風男性からは
「アンケート?すぐ終わるんやったら、別に構わへんで」という意外な回答が返ってきました。
それからはカンペを必死で読み、そのチョイ悪風の男性が回答したことを書き留めました。そして、無事に15項目を聞き終えました。
「以上です。ご、ご協力、、あ、ありがとうございました。よ、良いご旅行を・・!」
そうしたらとのちょい悪男性からは次のような言葉が返ってきました。
「どういたしまして。暑いさかい、熱中症にならんようがんばってや」
終始心臓がバクバクになりましたが、無事にアンケートが1枚完成!
知らない人にこちらかから声をかけるなどできない私が、明らかにハードルが高い類の人に声をかけることができた瞬間でした。
「完璧じゃないですか!良かったですよ。この調子で頑張ってください。」と現場監督もほめてくれました。
それからは1人でアンケート調査を行いました。声をかけては断れ、次も断れ・・ということを繰り返していたのですが、なかには丁寧にご回答いただける方もいらっしゃいました。
知らないうちに回答が埋まったアンケートは昼過ぎには20枚ほどになっていました。そして、どういわけかこの作業が意外と楽しく思えるようになってきました。
引っ込み思案の私にとって精神的にきついことには変わりなかったのですが、自分の殻を少し破ることができたような、不思議な感覚が芽生えたのです。
私はその当時、大学2回生でしたが大学に入ってから友達の数が非常に少ない状況でした。
その理由は自分でもわかっていました。引っ込み思案の性格のため、同じ大学に通う人々にほとんど声をかけられなかったのです。
私の通う私立のマンモス校では細かいクラス編成はあまりありません。積極的に声をかけないとなかなか友達ができないという状況。
あれから1年ほどが経過しますが、今から考えてみると、この観光地アンケート調査バイト(計4日間)を経験した後、不思議なことに大学内での友達が増えたように感じています。
それは、積極的にこちらからコミュニケーションを図る練習ができたことで自分のなかの何かが変わったからだと考察しています。
ちなみにこのアンケート調査バイトは日給9000円でした。立ちっぱなしの仕事ではありましたが時給換算では1000円を越えており、なかなか割が良いと思いました。私の場合、コミュニケーションの練習になったのが何より良かったですね。
(短期バイトの体験談 20代男性 大学生)